【書評】「フィリピンパブ嬢の社会学」がぶっ飛びすぎててこの5年で1番面白い本

公開日:  最終更新日:2019/07/03

ここまでぶっ飛んでる新書があるんですね。

「フィリピンパブ嬢の社会学」ほんと最高でした。

 

調査対象と付き合う!?

フィリピンパブ嬢の社会学

著者の中島弘象さんは、大学院の修士論文でフィリピンパブ嬢について書くことに。次の文章はまえがきに書いてるんですけど、もうここで「まじか!」と心のなかで叫んじゃいましたよ。

何回か通ううち、僕はミカと付き合うことになった。  指導教官にそのことを告げたら、顔色が変わった。 「そんな危ないこと、すぐやめなさい! そんなことを研究対象にはできません。その女性とは早く別れなさい。あなたのお母さんに顔向けできません!」  それでも付き合い続けた。

なんと研究対象のフィリピンパブ嬢の1人ミカさんと付き合うことに! ぼくも曲がりなりにも大学で卒業論文を書いた身です。ぼくもインタビュー調査しましたが、そのインタビュー対象の人と付き合うなんてびっくりですよ。

インタビュー対象でしかもフィリピンパブ嬢と付き合うなんてご法度なんじゃないの!? 本屋でこの本に出会ったんですけど、このまえがき読んで「絶対買おう!」と決意しました。

 

過酷すぎる恋愛。過酷すぎる修士論文。

この本読むまでフィリピンパブがどういうビジネスなのかわかってませんでした。フィリピンパブと切っても切れないのが「ヤクザ」なんですよね。このミカさんは、ヤクザの手引きにより「偽造結婚」して日本にやって来たんです。

そしてそのヤクザが経営するフィリピンパブでホストとして働く。このようにバックにヤクザがいるから、堂々と付き合えないんですよ。

「ねえ、私と付き合ってくれる?」  付き合う? 名古屋の繁華街のフィリピンパブのホステスで、偽装結婚していて、背後に暴力団がいて、契約に縛られて自由もない。そんな話を聞かされた直後の告白だ。  だが、その頃、僕には彼女がいなかった。それに偽装結婚しているフィリピン人にも興味があった。研究に役立つとも思った。  こうして交際が始まった。

ヤクザに付き合ってることがバレるとえらいことになるから、こっそりとデートに行くしかない。その苦労話がほんとにリアル。

そしてフィリピンパブ嬢は「偽装結婚」して来日し働いているから、労基法もクソもなく、劣悪な労働環境で働かされておりそれも大変。

筆者はお母さんからも猛反対されます。

「あんたがフィリピンのことを調べているのは知ってた。だからいろいろ応援もしてあげてたし、大学院にも進学させたのに……。ああ、恩を仇で返された!」

こんな逆境のなかでも、ミカさんのフィリピン人特有のポジティブさが筆者の中島さんと更には我々読者も救ってくれるんですよ。ほんとに前向きで、「おれってまじ甘ったれてるな」と痛感させられます。

筆者の中島さんは半ば「フィリピパブ嬢のヒモ」みたいになりつつ、危険な場面にも遭遇しながら修士論文を書き上げていくんですね。ここまで体を張って研究する人がいるのでしょうか? 卒論書こうとしてる文系学生はとりあえずこれ読んだほうが良いですよ。参考文献を読むだけじゃ全く研究にならないし、どんどん研究対象の懐に飛び込んで行くことで見えるものがあるんですね。

もう読んでてヒヤヒヤする場面がいくつもあるんですね。契約について雇い主の「ヤクザ」に話し合いをしに行くシーンがあります。こんなドラマみたいなことがほんとにあるなんて驚きですよ。

赤と黒の防音ドアの前に立つ。喉がカラカラに乾いている。取っ手に手をかける。心臓がドクドクと打っているのが耳の奥に響く。目を閉じ、深呼吸した。それから一気にドアを押して店の中に入った。

読んでるこっちまで「ヤクザ」に殴られるんじゃないのかと思うほど、手に汗握るシーン。本のタイトルに「社会学」と書いていますけど、これは超一級のエンタテインメント小説でもあるように思います。

ここまでしてミカさんという女性を愛し、修士論文を書き上げた中島さんすごすぎです。

フィリピンという国の現実、フィリピンパブの闇

フィリピンでは国民の1割が海外に出稼ぎに出ている。そして彼らから送られてくる外貨送金がフィリピンの消費を生み出し、経済を支えているのだ。ミカの家族のように、送金だけで生活しているというのは、一家族の問題ではない。国全体の問題なのだ。

貧しいし、フィリピン国内に仕事がない為に偽装結婚までして日本に稼ぎに来るんですね。そしてホステスとして働き、ヤクザにピンハネされた少ない給料からフィリピンの家族に仕送りする。

フィリピン人の笑顔の裏には、日本に日本人として生まれた身からは想像もつかないような闇があるんですね。

日本では、ブラック企業といった問題もありますけど基本的に仕事がないということはないじゃないですか。アルバイトの時給1000円なんて貧しい国から考えたら破格の値段なんですよ。日本はいかに恵まれた国なのか。

母語以外の言葉を一生懸命覚えて、海外に出稼ぎにいくなんてしなくても誰でも生きていけるのが日本ですよ。(だから日本人は英語できないというのもあるかもしれませんが・・・)

フィリピンパブ嬢はいろんな危険をおかしながら、日本語を必死に覚えて日本人男性に笑顔を振りまく。フィリピンパブ嬢に対して一般的に「金を巻き上げる人」というイメージがあるように思いますが、ここまでの努力があなたにはできるでしょうか?

 

ただ単に「エンタテインメント」としてこの本を読むこともできますし、世の中をよく知るための「社会学」の本としても読むことができます。いずれにせよ、出て来るエピソードがぶっ飛んでてほんとに驚かされます。

 



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